20年前に山を切り開き開発された吉野山に程近い分譲地の外れに建つ住宅。プライベートなお客さんを食事やお酒でもてなす為のピザ釜やバーカウンターなどを設えた、通りに向かって全開する大きな三和土を併設している。周囲は吉野山や標高1000mを超える金剛山、葛城山に囲まれており、遠方に目を向けるとそれらの山々の景色を楽しむ事が出来る。一方近くに目を向ければ赤茶かグレイ色の屋根に茶系の壁を標準仕様とした切妻あるいは寄棟のほぼ同形状の2階建て木造住宅が建ち並ぶ。同じような型の2棟の家が前後に並ぶ姿は、周辺の分譲地のタイポロジーに溶け込んでいるようにも見えるし、2つのピークをもつ屋根のジオメトリーは金剛山、葛城山の山並みにも見える。床・壁・天井の1方向連続面がひとつの緩やかなまとまりを作り、そのまとまり同士が床・壁・天井のいずれかを共有しており、地形の特徴を表わす言葉で表現できるような場所が内外のあちらこちらに生まれている。造成により撤去されたであろう地場産の巨石を再びここに据え付け、基礎の残土を塗り重ね、新しい地形を作っている。街外れの造成地を、建物と一体化した開放的なランドスケープにより再生し、周囲の環境に魅力を与え活性化の起爆剤になる事を目指している。
軸組に12mmと24mmの2種類の構造用合板を打ち付け、屋根と床を折板のように連続させ一体化したモノコック構造である。軸力の負担が大きな柱に240角のクリの木を利用したり、水平構面を固める為に、屋根と床を斜めスラブで繋げるなど、場当たり的に構造を解決しながら、それにより決定される形状を隠さずに積極的に表に出して、空間をつくる契機としている。
(写真撮影 笹の倉舎 笹倉洋平